研究開発


・燃料利用技術の研究

 大地を離れ、宇宙という新天地へ発展の枝を進めるにあたり、何よりも必要とされたのはエネルギー――有体に言ってしまえば燃料であった。光、水、空気…、地上では至極当然の存在であるそれらもこの黒く冷たい世界では自らの手で生み出さねばならない。宇宙という場所では、大地にも重力にも縛られない代わりに何をするにもエネルギーが必要だったのである。
 幸いなことにも燃料の確保自体は十分可能な状況にあった。テラより遥か遠く、冥王星にて発見された燃料採掘地より大量の燃料が掘り出されていたのである。だが、問題もあった。
 掘り出された燃料はそのままでは使うことは出来ず、使用可能な状態にするには一度地上の精錬プラントに運ばなければならなかったのである。長距離輸送システムという安価かつ大規模な輸送手段が実現されたとはいえ、重力の壁を越えるためのコストは決して安くは無く、また当然ながら輸送量の限界も存在する。今後さらなる宇宙進出を目指す際に、この点がネックとなることは大いに考えられることであった。
 これを受けて、宇宙拠点コスモスでは拠点内でも操業可能な燃料プラントの研究が進められることとなった。ただし、一口に燃料と言っても宇宙におけるあらゆる用途に供給を可能とするため、石油精錬や原子力発電を始めとし、ロケット燃料、対消滅機関用の反物質の生成などその分野は多岐に渡っている。また、宇宙拠点という狭く脆い空間での操業を行うためには、施設のダウンサイジングや精錬・輸送における安全性の向上も必須であり、こちらについても研究が進行中である。
 いつの日かこの研究が結実した暁には、ニューワールドにおける宇宙開発は新たな局面を迎えることであろう。

・衛星研究事業

あまり知られていないことではあるが、現在ニューワールドには人工衛星が存在しない。遥か上空に宇宙港や宇宙ステーションが浮かび、星間リンクゲートや銀河鉄道といったさらに外への施設すら開発されてきたにも関わらず、実はGPSも無ければ天気予報も流れていなかったのである。
 このある意味奇妙な状況に対して、優れた宇宙技術を持つ初心の民を中心としたチームが衛星開発分野への研究に意欲を見せている。ただし、ハード分野以上にハッキング対策等のソフト分野の研究も必要であり、そちらの進展が無い現状では基礎研究のみに留まっているようである。

・宇宙環境を利用した研究

前述した通り、宇宙という場所は何も無い。――だが。だからといって必ずしも不利な環境ではないというのが科学というものの面白さであろう。それを体現したような研究が、ここ、宇宙拠点コスモスにて行われており、地上では理論的、技術的、あるいはコスト的に困難なレベルの高精度の薬品や素材の製造法が開発されつつある。
 なぜ宇宙では出来て地上では出来ないのか。その秘訣は『無重力』である。
 例えば、高精度の物質を作るためには、溶かして混ぜた原料が完全に掻き混ぜられ、全体として均一に存在するような工夫をすることが必要になってくる。電子機器素材など特に高精度なものを作る場合には、原料のほんの僅かな偏りのせいで大幅に性能が落ちてしまうこともありうるため、この点は非常に重要視されている。ここで問題となるのが重力である。地上において下(地面)方向に向かって常にかかり続けるこの力は、重い物質ほど下に引き寄せるため、原料の偏りを生じる一因となってしまっている。しかも、地上である限りまず回避は不可能であり、厄介な問題となっている。
 しかし、無重力である宇宙で製造する場合にはこの問題はあっさり回避でき、そのため高精度な物質を安価に製造することが可能となるはずである。他にも、特に装置を使わずに完全な球を作れたり、地上では混ざらない物質が混ざったりと、様々な方面での活用が考えられている。
 ただし、もちろん問題も多い。重力が無いことが逆にマイナスに作用したり、地上での生産施設のノウハウが利用できなかったりと、まだまだ研究が必要なようである。だが、ニューワールドの、そして初心の民の持つ技術があれば、実用化はそう遠くないのかもしれない。


輸送分野に関する研究開発

宇宙という未知の世界へとNWが進出するにあたって、大きな障害となった壁のひとつは、いかに宇宙空間へと移動するのかという、単純で初歩的な、そして根本的な問題であった。地球という重力井戸の底からどう人員や資材を持ち上げるのかという必要性は、ひとまず満天星国の保有する宇宙行きの長距離輸送システム『旋天線』が解決していたが、このシステムはディーゼル機関という燃焼エンジンを利用するものであり、常に燃料枯渇の問題を抱えるNWとしては、将来的にはさらに効率的なエネルギー機関への転換が必要とされている。
満天星国の前身のひとつである旧都築藩国では、かつてこの長距離輸送システムに続くアイドレスとして、軌道エレベータの開発が検討されていたことがあった。この草案は、同時に議論されていた帝国環状線がより帝國全域に貢献するであろうとの期待から、そのまま見送りとなった経緯がある。

「天のケーブルカー」と呼ばれるこのような軌道エレベータ、静止軌道よりも地球に近い低軌道を利用するために重力という目には見えない風を受けて回転する風車、ボロ輸送システムや、長大なひもを使って宇宙船などの軌道を変更させるテザー推進など、重力や惑星磁場を利用した大量物資輸送システムの研究は、地上の重力から解き放たれた宇宙空間でこそ実践的研究が可能な分野である。
また、このような輸送システムを運用するために必要な強度と物質特性を持つ新素材、炭素やケイ素ナノチューブなどの開発や、強力な宇宙放射線や紫外線防御のコーティング研究も併せて行われている。


参考 絢爛舞踏祭公式サイト 絢爛世界の紹介
http://www.kenran.net/world5.html


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